トラックに轢かれた訳ではなく、ブラック企業の鬼残業による過労で倒れた訳でもなく、ただただ正月に食べた餅で喉を詰まらせて死んでしまった山川光は、ふとした事から異世界へと転生する事になった。
神力を使い果たした女神からは流行りのチートはもらえなかった。鑑定もアイテムボックスも転移魔法も何ももらえなかった。
このままではせっかくの異世界もただのモブで終わってしまう。光はリターンを得る為にリスクと言う名の命をかける事で異世界を生き抜いて行くのだが・・・
「これ、かなりの無理ゲじゃね?」
前世の知識を総動員して、死なない為に、光は今日も努力を続ける・・・
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第21話 実技試験を受けるヒカル
ヒカルと、メイリーンは実技試験会場へと移動していた。
実技試験会場では、更に2つのグループに分けられた。329番のメイリーンと330番ヒカルは魔力特定のグループに入る。
魔力測定は置いてある水晶に魔法を放つイメージで魔力を込めるとそれに対応して水晶が光るというモノだ。属性による優位性はないので、使う属性は何でもよい。ヒカルとメイリーンは無詠唱で魔法を使う事ができるので、詠唱しなくても水晶に魔力を込める事ができるが、無詠唱魔法が使えない人は、詠唱し魔法名を唱えて水晶に魔力を込める。
そして優劣だが、例えば火属性を込めると水晶は赤く光る。魔力の量によって薄い赤色から濃い赤色まであり、その濃淡で魔力の量を測るというモノだ。もちろん濃い色の方が魔力量が多いという事なので、試験でも有利になる。
「ヒカルは火属性で行くの?」
「ああ。メイリは水属性だろ?」
「うん。水魔法の方が得意だからね。濃くなった方が有利だし、それに無詠唱だと加点とかありそうだから頑張るんだ。」
(たしかに無詠唱を使ってる人は少ない。加点は十分考えられるな。勇者とかなら光魔法だろうから水晶が白く光らせる人がいるなら勇者かもしれないな。俺もAクラスになりたいから手加減せずに全力でしよう。)
そして、ヒカルとメイリーンの魔力測定の順番になった。受験番号が329番と330番の為、隣同士で同時に測定となった。2人とも無詠唱で目の前にある水晶に魔力を注いでいく。
ヒカルは火属性の魔力を注ぐので、水晶は赤く、赤く染まっていった。
(ラノベ君の情報ならここでやりすぎるのが定番コースだとは思うけど、俺はネメシス様がチートくれなかったからな。成長補正極大君のおかげで、他の人より魔力量は多いと思うけど、さすがに水晶を破壊する事はできないか・・・)
メイリーンもヒカルの隣で同じように水属性の魔力を注いでいた。
(メイリも順調そうだな。俺程じゃないけど他の受験者よりも色が濃そうだ。よくよく考えればメイリも光属性持ちなんだよな~。この世界って光属性持ちって実は多いのかな?それだと光魔法=勇者と思ってたけど考え直さないとな。)
ヒカルとメイリーンは魔力測定を終え、次の的当ての会場に移動していた。
「魔力測定けっこううまくいったと思ったけどどうかな?」
「結果をその場で教えてくれたらよかったけど試験だから全くわからないもんな。でも無詠唱使ってる人って少なかったから有利にはなったと思うよ。」
「的当ては中級魔法で行くんでしょ?」
「ああ。的は中級魔法使ったら加点があるってスクルドが言ってたからな。折角覚えたんだから使わないと損だしな。」
(的を壊しつつ会場も壊す程の魔法の使い手っているんだろうか?ラノベの主人公みたいな人がいたら勇者で確定だと思うんだけど・・・。)
的当て会場に着いて、順番を待つヒカルとメイリーン。
(まあ俺には的を破壊するとか無理だから無難に中級魔法を打つけど、主人公なら上級魔法とか神級魔法が使えても不思議じゃないよな?あ~せっかく試験受けに来たのに勇者のゆの字も見つからない。どうしたもんか・・・)
順番を待ちながら、すでに試験を受けている受験生を見るが、的を破壊するほどの受験生はいない。更に言えば詠唱して初級魔法を打つ受験生ばかりだった。
(この魔法学校に試験を受けに来てない。って事はないよな?あれ?もしかして勇者は試験を免除されてるとかあるのか?いやありえるな。推薦なんてどこにでもあるもんな。前世から推薦なんて全く馴染みがなかったから考えもしなかったな。あ~俺も能力があったら高校だって大学だって推薦で入れたのに・・・)
他の受験生の魔法を見ながら順番を待っていると、すぐにヒカルとメイリーンの番になった。ヒカルとメイリーンは、それぞれ覚えた中級魔法で的当て試験を無難にこなした。
ヒカルもメイリーンも中級魔法は無詠唱で放つ事ができないので、もちろん詠唱した。ヒカルが火の中級魔法フレイムアローで、メイリーンは水の中級魔法アクアアローだ。
火魔法は初級魔法がファイア系で中級魔法がフレイム系になる。水魔法は初級がウォーター系で中級魔法がアクア系だ。魔法と言えば無詠唱。詠唱魔法は中二病をくすぐるので苦手なヒカルは、恥ずかしがりながら魔法を放った。
(こっちの人ってよくあんな恥ずかしい詠唱できるよな。我が手に集いし炎よ。その炎で敵を撃て。なんて中二病コースまっしぐらだよな・・・。早く無詠唱で打てるようにならないと・・・頼むよ。成長補正極大君。)
「中級魔法使ってる人はあまりいなかったし、合格は問題なさそうだな?」
「うん。私もそう思うよ。後はAクラスになってるかどうかだね。一緒のクラスだといいな~。」
(メイリと一緒のクラスか・・・。Aクラスに入ればきっと勇者がいるよな?試験会場で見つける事ができなかったから入学したら本格的に勇者を探さないと。折角ここまで来たんだ。進級できなくて死亡なんて嫌だぞ・・・)
周りの受験者で中級魔法を使ってる人はほとんどいなかった。それだけでも魔法の実力が上位だとわかったので、試験を終えたヒカルとメイリーンは合格する事を確信して、宿へと帰って行った。
第22話 試験の結果が気になるヒカル
アルムガルド魔法学校の入学試験を終えたヒカルとメイリーン。試験会場で魔力を込めすぎて水晶を壊す事もなく、的当てで神級魔法をぶっ放す事もなく、学科試験で未知の回答をするわけでもなく、そして、悪役貴族の子供に絡まれてる女性を助ける事もなく、平凡に入学試験は終わった。
(何かイベントが起こってくれた方が異世界っぽいけど、まあ俺は主人公じゃなくて勇者のサポート役だからしょうがないか。でもせっかくの異世界な訳だし平凡な生活って言うのもつまらないよな・・・。なにかこうチート使って学園でモテモテハーレムルートとか、実力隠して陰で暗躍ルートとか・・・まあ今の俺は何もない金欠野郎だからひたすら努力するしかないんだけど・・・)
「ねえヒカル。合格発表って1カ月よね?」
「ああ。魔法学校に張り出されるみたいだな。」
「私達って合格してるよね?」
「そうだな。合格は間違いないと思うぞ。」
「だよね。じゃあさじゃあさ・・・家見に行かない?」
「ん?家?」
「うん。私考えたんだけどさ、魔法学校に入学して寮に入ったら毎月2人で寮費が金貨10枚もかかっちゃうじゃん。でもさ、どこかで家を借りてそこから2人で学校に通ったらそんなにお金かからないと思うの。」
「たしかに・・・でもそんなにうまくいくか?寮は食費込みで一人金貨5枚だぞ?実際家を借りた方が高くつくんじゃないか?」
「そんな事ないよ。ティレスさんに聞いたけど、金貨5枚以内で借りれる所もけっこうあったよ。」
「マジで!?」
「うん。だから一緒に見に行こ。」
(まじか!?なんかメイリがコソコソしてるな~っと思ってたけど、ティレスさんに家の相談してたのか・・・。でも俺達ってまだ12歳になるかならないかの年だよ?それなのに借家で自炊生活?しかも同棲?異世界って何でもありだな。てか12歳に家を貸してくれるってどんな世界だよ・・・。)
「ダメ?」
(そんな上目遣いで言われちゃ・・・惚れてまうやろーー。いやいや俺達まだ12歳になってもないから。小学生6年生ぐらいだよ??どれだけマセガキなんだよ!?)
「い、いや・・・かまわないよ。」
「やった。じゃあ早速行こ。」
(ふふふ。契約しちゃえばこっちのもんだよね。入学前に家は決めておかないと。入学してヒカルがモテたら困るもんね。一緒に登下校する権利は絶対に誰にも渡さないんだから。)
メイリーンに押し切られ、家を見に行く事になったヒカルは、そのままメイリーンと共にギルドに向かった。
メイリーンは用意周到だった。ギルドに着くとティレスに物件資料を依頼し、出てきたのは金貨3枚、4枚、5枚の3件の物件だった。
「いつの間に・・・」
「驚いたでしょ?王都に来てからティレスさんに色々探して貰ったんだ。この3つならヒカルの言ってたお金の事も問題ないでしょ?」
「あ、ああ・・・」
(金額が高い!とか、学校から遠い!とか言って諦めてもらおうかと思ったけど、メイリの方が一枚上手だったな。寮の方が勇者と接触した後、色々行動しやすいと思ってたけど、正直お金の問題もあるし、家を借りてもいいかもな。どれも部屋は二つあるからプライベートは守られそうだし。)
「どれにする?私のおススメは金貨4枚の家なんだ。場所もよかったし中も綺麗だったよ。」
(もう下見もしてるんだ・・・さすが。としかいいようがないな。こんな嬉しそうに話すメイリを見るのもレアだし、ここで決めるか。実際メイリがいなかったら俺一人でここまで来れなかったしな。一緒に住んでもいいかな。まあまだ俺達小学6年生の年だけど・・・)
「ならそこにしようか。金額も問題ないし、メイリが下見してるなら安心だしね。」
「本当?やったーーー!」
「よかったわねメイリちゃん。」
「うん。ティレスさんありがとう。」
「いえいえメイリちゃんが頑張りがあれば、ですよ。」
(ギルドって家の斡旋もしてるんだな。知らなかった。ギルドってなんでもしてるんだな。)
こうしてヒカルは、まだ入学も決まってない段階で、家を借りたのだった。
(宿に泊まるよりも安いし、結果よかったか。仮に試験に落ちても王都で冒険者活動すれば問題ないしな。まあ試験に落ちたら死ぬんだけど・・・死んだらメイリ悲しむよな・・・うん。頑張ろ。)
無事に住む家も決まり、家具などの必要なモノを買い集めながら日々を過ごして、試験合格発表の日を待った。
「いよいよ明日だね。」
「ああ。合格は確実とは思ってもやっぱり結果を見るまでは緊張するな。」
「Aクラスじゃなくても同じクラスだったらいいな〜。」
「そうだな・・・」
(メイリが最近かなり積極的だ。一緒に住むようになって俺もメイリの事が気になってきてる気がする・・・俺ってロリコンだったのか・・・いや前世じゃ年上好きだったはずだ。そう、忘れもしない。あれは社会人になって初めて営業で契約をとれた日、上司の絢音さんに初めてをうばわれたんだっけ・・・あんな事がなければ童貞卒業する事もなかったよな〜。)
「どうしたの?」
「ううん。何もないよ。」
「試験の結果が気になるし、今日は早く寝て明日朝一で見にいきましょ。」
そう言って二人は明日の結果にドキドキしながら結果発表を待つのだった。
カクヨム300万PVの『異世界転生にチートは必須だよね』を読む
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